食の未来—グルメの抵抗 text for GQ Japan, July 2022



GQ Japanに書いたテキストです。
もう新しい号も出ていることかと思いますのでこちらで読めるようにアップしますー。(少し修正してあります🙇‍♀️)

 

食の未来──美食家(グルメ)の抵抗

人口増加や気候変動により、食べるものが不足する食糧危機が迫っている。それをふまえ、ドイツ・ベルリン在住で、ケータリングを提供する料理家のakkoさんが、豊かな食の未来への近道を説く。

Words by akko @ROKU Berlin

2022年、未来を想像するとダークな気分だ。人間はこの50年で、“46億歳”の地球を一気に破壊し、気候危機の荒野に立ちすくむ。

病気が蔓延し、人の血液にもマイクロプラスチックが入り混じった、SFみたいなこの世界で、健康でいるのは至難の業か? 「経済を回せ」と促進される消費主義、その規模とスピードに合わせ、無理やりカラダを大きくさせられる家畜と呼ばれる動物、農薬や防腐剤、抗生物質、直ちに健康に影響は出ない量の放射能を含んだ食品は、人間を健康にしてくれるのだろうか?

30年後、世界の人口は100億人に増え、今の1.6倍の食料が必要になる。現時点で野菜に含まれるミネラルは100年前より30%減、農地のミネラルは50~80%減。成人の40%が肥満で、人口の9%は飢餓で瀕死の状態だ。
まさにピンチの2022年、今日なに食べる?

イマココでちょうど美味しそうなもの、地元で採れる野菜を旬の頂点でもぎ取って喰らおう。その素直さは贅沢かつストレス・フリーだ。

2030年までにCO2の排出量を現状の半分よりさらに減らさないと「地球オワル💦」という未来は、すでに世界が合意した共通認識。新たな戦争も始まって、エキゾなフルーツを遠いグローバルサウスから輸入して食べることには、豊かさではなく罪悪感を覚える。だからこそ、「メイド・イン・地元」が未来への近道、メンタルにも良い。

ドイツのボン大学による最近の研究では、環境 、健康、食糧難などを鑑みて、先進国は肉の消費量を75%減らし、現状の25%に抑える必要があるという。米・オックスフォード大学は牛肉の消費量は75%、豚肉の消費量は90%減らすべきとの見解だ。野菜中心 の粗食に未来がある、と世界の研究者が次々とデータを出しているのだ。

食卓に肉がない恐怖は豆製品、とくに豆腐が解消してくれる。豆腐を冷凍して作る鶏唐揚げモドキはすでに定番といえよう。スパイスとココナッツヨーグルトでマリネして粉をはたいて焼けばKFC要らずだ。がんもは、北アフリカの万能チリソース、ハリッサやピーナッツバターなどでアレンジすれば、新( あたら)うまい。日本人にはお馴染みのきつねうどんのジューシーな油揚げは、地球を救う未来の食品として、世界で発見され 、何枚食べても大丈夫♡とあなたの恐怖心を取り除く。

キノコには未来しか見えない。森で採取してソテーすれば、その弾力はほぼ魚介類。原木椎茸の肉厚な歯ごたえはアワビくらいしか太刀打ちできない。表面を少し焦がせば、旨味が凝縮され、そのあたたかい多幸感に、胃袋はもちろん心も満たされる。キノコ類は培養できるうえに、ガン等の病気の予防に効くとされる成分も満載で、ビル・ゲイツが投資する最先端の代替肉「ビヨンドミート」より未来派だ。

味噌やキムチ、納豆などの発酵食品にも、世界は注目している。善玉菌が腸に棲む細菌「腸内フローラ」を多様にし、腸の中はまるで 珊瑚 “ 腸 ”。免疫力は右肩上がりだ。『GQ JAPAN』読者にも、ヴィーガンキムチを自作して、不思議な旨味が生まれる瞬間と微生物の偉大さを体験してしい。

ワカメや昆布は、生産過程における環境負荷も低く、注目の素材だ。海藻に含まれるグルタミン酸は干し椎茸のグアニル酸と合わせることによって、ディープに優しく飽きのこない旨味を生み、私たちの味蕾(みらい)を開発する。僧侶が精進出汁にたどり着く理由もわかる気がする。

以上に紹介したようなアミノ酸たっぷりの食材を毎日の食事に取り入れることで、われわれの食欲は動物性の食材がなくても、旨味で満たされる。
とはいえ、ボン大学のデータでは、4回に1回は肉を食べてもOKというのだから、サステイナブルな食生活は意外と簡単だ。しかしそれ以上食べたら未来はない、というファイナル・アンサーを忘れず、シリアスに食事を選びたい。

未来の食の新技術は、われわれが直面する危機を救ってくれるだろうか? 遺伝子操作によってアレルギーを引き起こさない小麦を 作る?いや、小麦は品種改良しすぎたがゆえに、その代償としてグルテンが増えたのだ。無理にはもれなくしわ寄せがついてくる。だから今、品種改良されなかった古代小麦が注目されている。牛に特殊マスクをかぶせて、ゲップに含まれるCO2の放出を防ぐ?檻の中で、太陽も見られず、一生搾取されるだけの動物をさらに拷問するなんて、人間のつくった問題の責任放棄、なすりつけだ。他 (た)の存在へのリスペクトを忘れた最新技術など、現状を暗 い未来へと加速させるだけだろう。その罪悪感はメンタルにもよろしくない。

地球に住めなくなり、ほかの星に脱出しようと乗った 宇宙船で、カロリーメイトやヘム鉄の血滴る代替肉を食べながら死を待つ未来は味気ない。そんな笑えない未来に、毎日の食事で抵抗する。日々、ローカルで有機的につくられた植物性食材を選択するのが、もっともグルメかつ地球のピンチを救う答えになるだろう。食べることはその本質的な意味を超えて、いつの間にかアクティビズムとして機能するのだ。

 

akko (料理家・ ROKU Berlin)
2006年より東京・渋谷でおでん屋を開業し、切り盛りしたのち2012年にドイツ・ベルリンへ移住する。ROKU Berlinとしてオーガニック・ヴィーガンのケータリングサービスを提供。

このコラムを先日亡くなられた永井潤子さんに捧げます。 🙏