Functions and Minimalism--- modern architecture in berlin 機能とミニマリズム ベルリンのモダン建築 2017

"Functions and Minimalism. Modern architecture in berlin" 2017
I wrote about architecture in Berlin for Japanese mag but not published.


機能とミニマリズム −−– ベルリンのモダン建築



ベルリンに移住した初期、時間は沢山あったので、現場を知るべく、日々観光地に出かけていた。
そんなある日、通称「ホロコースト記念碑」に行くことに。マストな観光地の一つで、ドイツ語では「Denkmal für die ermordeten Juden Europas」、 直訳すると[ホロコーストで殺されたユダヤ人犠牲者のための記念碑]。場所はブランデンブルグ門という、パリで言ったら凱旋門というか、観光客で賑わうベルリンのど真ん中だ。

着いてみるとそこには大きな四角い石がずらーっと、石の高さを波のようにグラデーションにして並んでいた。



ただの四角い石。
コンクリートの灰色の硬い四角が約2万平米の敷地にぎっしり。

石は0mから4.5mの高さで合計2711基。石の高さと同時に足元も波のように深く、浅く、斜めになったりして、シンプルながら圧倒的なビジュアルデザインだ。その時間や季節で違った光と影のコントラストとパターンが現れる。



しかしその墓石か棺のような石の上に座って読書する若者、Tシャツを脱いで寝転がる人、ランチを食べる人もいた。筆者にとっては少し不思議な感覚だが、とても好感が持てた。



ここを二回目に訪れたのは母と妹と3歳の甥っ子がベルリンを訪ねてきた時だった。迷路のような石の間を歩いているうちに自然にみんなでかくれんぼが始まった。甥っ子はハイテンションで墓石の間を走り回り墓地は最高の遊び場となった。



しかしかくれんぼをしていると、同じようなビジュアルの連続に少し不安になる迷路体験でもあった。

記念碑というとたいていが大きな石に文字が掘ってあるだけのイメージがあったので、ここには大きな刺激を受けた。
そのビジュアルや中に入っていくと不安になるという感覚的な記憶に残るデザイン。
人が集まって過ごせる場所としての遊びのある作り。
一等地の広大なスペースを使うスケールの大きさ。

慎重に、でもダイナミックによく考えて作られた場所だと感じた。

88年から歴史家エバーハート・イェッケル(Eberhard Jäckel)とジャーナリストのレア・ロッシュ(Lea Rosh) の呼びかけによって建築計画は始まったが、様々な議論が巻き起こり、実際に建築に取りかかったのはなんと15年後の2003年だった。
設計はアメリカの脱構築主義の建築家ピーター・アイゼンマン(Peter Eisenman)。

地下には入場無料の情報センターがあり、資料を見ることができる。
強制収容所で焼かれる前日に家族や友達に書いた手紙など、生々しい展示ですが、戦争の愚かさや悲惨さを知るのにとても良い展示です。


 

 

 

パブリックな施設に超モダン建築を採用している例として、ベルリンから東の郊外に、日本で言う火葬場、クレマトリウム(Krematorium Baumschulenweg)という場所がある。

 

高い天井から自然光が入る施設内には、沢山の石柱がランダムに配置されている。静かに明るく、クリーンで宗教的&神秘的な印象。圧倒的ビジュアルイメージに静粛な気持ちになる。



火葬場という故人の肉体とのお別れの場所、メモリアルな儀式のための場所だけにここも印象に残すことを考えて繊細に作られているようだ。光と影、水や砂も使ってデザインしてあり、それらがつくる形が幾何学的な所がドイツ的。コンクリートうちっぱなしの硬質でシンプルな空間と自然光の静かなあたたかみは、寂しさと優しさを同時に感じる。

  

  

[ぽっかりと別空間に浮かび上がったようなイメージ]

 

ここはベルリンにあるドイツ連邦首相官邸(Bundeskanzleramt)と一連の建築群、それらの建築にアクセスする駅、日本で言う永田町、地下鉄U55のBundestag駅もデザインした建築家、アクセル・シュルテス(Axcel Schultes)とシャルロッテ・フランク(Charlotte Frank) のデザインで、1999年に再建されたもの。連邦の絆も、面白いビジュアルの連続とその大きさで、川ぞいを散歩しながら鑑賞するのに最高の場所だ。

 

 

 

 

それから、日本で言う動物愛護施設のティアハイムTierheim)という場所も紹介したい。



余談ですが、私は10歳の時(82年)タウンページで動物愛護協会というのを見つけ、一人バスに乗って見学に行ったことがある。そこは野良犬や捨て猫がコンクリートの窓もない狭い部屋に入れられ、1週間後に引き取り先が見つからなければ、ガスを吸わされて窒息させられそのまま焼かれるという施設だった。その経験から動物愛護施設というのは愛護とは名ばかりの屠殺場というイメージだった。

しかしこのベルリンのティアハイムではなんと殺処分ほぼゼロだという。(重い病気や非常に凶暴な場合、第三者を入れて協議の上、年間10匹ほどが安楽死させられているとのこと)見学に行ってみるとティアハイムはモダンなデザインと広大な敷地を使って、同じコンクリートでも、日本のそれとは全く違う印象につくられていた。

その敷地は16ヘクタール(1.6km×1.6km)、ヨーロッパで最大。完全に民間で運営されていて、約120人の従業員と600人のボランティア、20人ほどの獣医、看護師と年間10億円以上の企業や個人からの募金が支えているということだ。

年間12000匹もの動物が保護されるのに、その99%が新しい飼い主を見つけてもらっているという。日本では年間殺処分数は、犬猫合わせて10万匹!これでも10年前に比べたら4分の1程度に減っているとのこと。私が小学生だった時はさらに多かったのでしょうか。知るのが恐怖だ。

デザインはディートリッヒ・バンガード(Dietrich Bangert)、彼もクレマトリウムの建築家アクセル・シュルテスと親交の深い建築家のようで、ミニマル、コンクリートうちっぱなし、幾何学的デザインと印象が近く、シンプルで清潔なイメージ。

犬の棟も猫の棟も動物が自由に室内と屋外を行き来できるようにデザインされている。特に猫の棟はかなり快適に見えた。沢山の猫が野外に放し飼いになっているスペースもあり、狭いアパートに暮らしているうちの猫に比べてもかなり良い環境に見える。

     

 

他にも羊や豚等の家畜、カメレオンなども保護されていて、その収容能力、それぞれの動物に合った形で、できるだけ広いスペースを提供していて素晴らしかった。敷地全体はぐるりと丸く散歩できるように作られてあり、犬などの訓練や散歩に使われる。コンクリートの池には蓮の花が咲いていて穏やかでZenな印象。この美しい施設を見て、子供の時に見学した動物愛護協会の牢屋との違いに感銘を受けた 。
ちなみにハイムではソーラーパワーのシステムも導入されていて、そんなところもかっこいい。
捨てられた動物の保護施設に、デザイナーズマンションのようなモダン建築を採用するというその余裕というか、気前の良さにただただかっこいいなと感心した。